建設業界で「BIM/CIM原則適用」という言葉を耳にする機会が増えている。国土交通省は、小規模なものを除くほぼすべての直轄公共事業においてBIM/CIMの原則適用を進めており、2026年春には建築確認申請でもBIM図面のPDFデータによる審査が始まる見通しだ。長らく「一部の先進的なゼネコンの取り組み」と見られてきた建設DXが、いよいよ制度として業界全体に広がろうとしている。皆さんの会社が建設・不動産・インフラ関連のシステムに少しでも関わっているなら、この動きは決して他人事ではない。今回は、この制度変化の中身と、ITストラテジストやIT部門の意思決定者が押さえておくべき視点を整理してみたい。
BIM/CIMとは何か、何が変わろうとしているのか
BIM(Building Information Modeling)とCIM(Construction Information Modeling)は、3次元モデルにコスト・工程・部材仕様といった属性情報を統合し、設計から施工、維持管理までのプロセスを一貫したデジタルデータで扱う考え方だ。従来の2次元図面を中心とした業務プロセスから、3次元モデルを核に関係者間で情報を連携させるプロセスへの転換を意味する。
国土交通省は2023年度から直轄の土木設計・工事でBIM/CIM原則適用を開始し、2026年度までに小規模なものを除くほぼすべての公共事業へ適用を広げる方針を示している。建築確認申請についても2026年春からBIM図面のPDFデータによる審査が始まり、2029年には本格的なBIMモデルそのものを使った審査への移行を目指すロードマップが公表されている。対象範囲も、河川工事・海岸工事・砂防工事・ダム工事・道路工事といった土木工事や、それに関連する測量業務・地質調査業務まで幅広く含まれており、決して一部の大型プロジェクトだけの話ではない。単に「3Dモデルを作る」ツール導入の話ではなく、発注者・設計者・施工者・維持管理者という異なる主体間で、データの形式や連携方法そのものを標準化していく、かなり大掛かりな制度改革だと捉えたほうがよい。
なぜここでITストラテジストの出番なのか
BIM/CIM導入の壁は「コストと人材」とよく語られるが、実務ではそれ以上に、積算・工程管理・資産管理といった既存の基幹システムと、BIM/CIMモデルとの間のデータ連携設計が最大の難所になりやすい。ここは業務とシステムの両方を理解するITストラテジストの領域そのものだ。
中小の建設会社にとっては、クラウド型のBIM/CIMサービスや国の補助金を活用した段階的な導入が現実的な選択肢になりつつある。ここでもベンダーロックインを避けながら、設計・施工だけでなく将来の維持管理フェーズまで見据えたデータガバナンスの設計が欠かせない。経営側から見ればBIM/CIMは、原価管理の高度化やサプライチェーン全体の最適化につながる経営情報基盤としての価値も持つ。ITストラテジストには、制度対応というコンプライアンスの文脈と、経営判断に資するデータ活用の文脈を、一本のロードマップとして描く役割が求められる。皆さんの組織では、この二つの文脈を同じ担当者・同じ計画の中で語れているだろうか。
情報システム部門が今から準備しておきたいこと
まず出発点になるのは、自社が発注者・元請・下請のどの立場にあり、関わる工事の種別によって適用時期や要求水準がどう異なるのかを正確に把握することだ。BIM/CIMは一律に同じスケジュールで迫ってくるわけではない。
次に、既存システムとの連携方式や、IFCなど標準化されたデータ形式への対応可否を棚卸しし、段階的な移行計画を立てる作業が必要になる。最初から全社一斉導入を狙うのではなく、まずは一つのパイロットプロジェクトでデータ連携の勘所をつかみ、そこで得た知見を標準化した上で他部門・他プロジェクトへ横展開していく進め方の方が、現実的でリスクも小さい。
まとめ
BIM/CIM原則適用は、建設業界にとって単なる「制度対応」であると同時に、業界全体のデータ活用基盤を作り直す大きな機会でもある。IT部門の意思決定者にとっては、これをツール導入案件として片付けるのではなく、経営戦略・データガバナンス・システム連携という複数のレイヤーを横断する変革プロジェクトとして捉えることが重要だ。皆さんの組織では、この制度変化をどのように「自分ごと」として準備していくだろうか。
