2026年1月、電力業界にとって地味だが大きな節目が訪れた。各地の一般送配電事業者が、家庭や事業所に設置するスマートメーターを「第2世代」、いわゆる次世代スマートメーターへと順次切り替え始めたのだ。第1世代スマートメーターは2024年度までにほぼ全需要家への設置が完了したばかりだが、その通信規格や計測仕様には有効期間があり、10年というサイクルで次の世代への更新が始まる。今回はこの機会に、電力インフラという「社会の基盤中の基盤」で進むDXの中身と、そこにITストラテジストやIT部門の意思決定者がどう関わるべきかを考えてみたい。
次世代スマートメーターが変えるデータの桁
経済産業省の次世代スマートメーター制度検討会がまとめた方針によれば、次世代スマートメーターは現行機と比べて処理できるデータ量が数千万倍規模に拡大するとされる。背景にあるのは、従来30分値が基本だった計測データを5分値・1分値といった高頻度データに置き換える設計だ。電力使用量をきめ細かく把握できるようになることで、再生可能エネルギーの出力変動を需要側で吸収するデマンドレスポンスや、家庭用蓄電池・EVを束ねて発電所のように扱う仮想発電所(VPP)といった新しいビジネスの精度が大きく上がる。ガスや水道の検針を電力メーターと共同で行う構想も同時に検討されており、実現すれば複数のインフラ事業者が一つの通信網を共有する、業界横断のデータ基盤へと発展していく可能性がある。一方で、これだけのデータ量を誰が・どこで・どう処理するかという設計判断は、電力会社単独では完結しない。小売電気事業者、アグリゲーター、住宅設備メーカーなど、多様なプレイヤーがAPIやクラウド基盤を介してデータをやり取りする前提で、全体のアーキテクチャを描く必要がある。皆さんの会社が電力・エネルギー関連のサービスに関わっているなら、この「桁違いのデータ」をどう受け止める設計になっているか、一度点検してみる価値がある。
送配電網そのものの「次世代化」も同時進行
スマートメーターの世代交代と並行して、資源エネルギー庁の審議会では送配電網自体の次世代化に向けた制度見直しも進んでいる。再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、発電設備の系統接続を検討する手続きが増加の一途をたどっており、2026年1月からは新規の接続検討申込みに対する運用ルールが見直された。あわせて、北海道と本州を結ぶ海底直流送電線や関門連系線の増強など、地域をまたぐ大規模送電インフラの整備計画も並行して議論されている。これらは物理的な設備投資であると同時に、系統情報をどう電子化し、関係事業者間でリアルタイムに共有するかというデータ連携基盤の話でもある。発電・送配電・小売という縦の役割分担と、地域をまたぐ横の連携を同時に最適化する必要があるという意味で、まさに業種横断のシステムインテグレーションの巧拙が問われる領域だ。従来は電力会社の中でも部門ごとに縦割りで管理されてきた系統情報を、外部の発電事業者やアグリゲーターにも一部開放していく流れは、既存の基幹システムにとって決して小さな変更ではない。認証・アクセス制御・監査ログといった基本的なガバナンス設計を後回しにしたまま接続範囲だけを広げれば、後年になって大きな手戻りを招くことになりかねない。
ITストラテジストに問われるデータ基盤設計と人材の橋渡し
電力インフラのDXが厄介なのは、規制産業ゆえの制度対応と、競争領域における新規事業創出とが同じデータ基盤の上で同居する点にある。スマートメーターのデータには個人の生活パターンが色濃く反映されるため、オプトアウト制度に代表されるプライバシー保護の仕組みを組み込みながら、同時にデータ活用による収益化の道筋も描かなければならない。ここはまさに、業務要件と技術制約の両方を理解した上で全体最適の絵を描くITストラテジストの本領が発揮される場面だろう。電力・ガス会社の情報システム部門にとっては、既存の基幹システムと新しいデータプラットフォームをどう接続し、外部事業者にどこまでAPIを開放するかという設計判断が、今後数年の競争力を左右する。皆さんの組織にも、エネルギー関連の新規事業や自治体との連携案件が舞い込んでくることがあるかもしれない。その時に「うちには電力業界の知見がない」と尻込みするのではなく、データ連携基盤の設計思想は他業界の経験も十分に生きる領域だと捉え直してみてはどうだろうか。
まとめ
次世代スマートメーターへの切り替えと送配電網の次世代化は、一見するとインフラ企業だけの話に見えるが、実態は膨大なデータをどう設計し、誰と共有し、どう収益につなげるかという典型的なDXの縮図だ。IT部門の意思決定者にとっては、自社が電力業界の当事者でなくとも、データ連携基盤の設計パターンや、規制対応と事業創出を両立させる進め方から学べることは多い。皆さんの会社では、こうした異業種のDX事例を、自社のシステム戦略にどう取り込んでいるだろうか。
