改正資金決済法とステーブルコイン時代の到来 ― 決済インフラにITストラテジストが今から備えるべきこと

2026年6月施行の改正資金決済法とステーブルコイン発行基盤の具体化が同時に進む中、決済・会計システムに関わるITストラテジストが押さえるべき改正のポイントと備えを整理します。

「電子決済手段」という言葉を、この1年で耳にする機会が急に増えたと感じている方は多いのではないでしょうか。2025年6月に成立した改正資金決済法が、2026年6月に施行されました。ステーブルコインを含む暗号資産関連の規制を大きく見直すこの改正は、決済・金融業界だけでなく、企業間取引や資金管理のシステムを担うIT部門にも無関係ではありません。すでにメガバンク3行が共同でステーブルコイン発行基盤「Progmat Coin」の構築を進め、国内発行のJPYCも信託型への移行を進めるなど、ステーブルコインは実証段階から実装段階へと移りつつあります。制度整備と民間の基盤整備がほぼ同時に進行している今の状況を、皆さんの組織では「金融業界だけの話」と捉えていないでしょうか。今回は改正のポイントと、決済システムに関わるITストラテジストが今から押さえておくべき論点を整理します。

改正の柱 ― 仲介業の創設とカストディ規制の強化

今回の改正は、暗号資産・電子決済手段(ステーブルコイン)を取り巻く規制の隙間を埋めることを主眼としています。柱の一つが「電子決済手段・暗号資産サービス仲介業」の新設です。これは、暗号資産交換業者や電子決済手段等取引業者と、実際に売買したい利用者とを引き合わせる媒介行為のみを行う事業者を対象とした登録制度で、利用者の資産を直接預からないぶん、既存の交換業者よりも財務規制は緩やかに設計されています。決済アプリや家計簿アプリ、EC事業者が暗号資産・ステーブルコインとの連携機能を追加する際の参入障壁が下がる可能性があり、注視しておく価値があります。もう一つの柱が、暗号資産カストディに関する規制強化です。現物の暗号資産のみを扱う交換業者等が経営破綻した場合に備え、当局が資産の国内保有を命令できる制度が新設され、利用者保護の実効性を高めています。あわせて、クロスボーダー収納代行の一部を資金移動業の規制対象に加える措置や、資金移動業者が破綻した際の利用者資金の返還方法を多様化する措置も盛り込まれており、越境ECや海外送金を扱う事業者にも影響が及びます。

信託型ステーブルコインの普及と決済インフラの変化

制度整備と歩調を合わせる形で、国内のステーブルコイン発行基盤も具体化が進んでいます。三菱UFJ信託銀行とProgmatが中心となって整備してきた発行基盤「Progmat Coin」には、みずほ・三井住友を含むメガバンク3行が参画し、2025年11月には商用実証の実施が発表されました。JPYCも信託型への移行を進めており、2026年5月には新たな円建てステーブルコイン「EJPY」の発行方針が正式決定され、パブリックブロックチェーン上での発行・流通が計画されています。こうした動きは、企業間の資金決済やサプライチェーンファイナンスにおいて、銀行振込に代わる即時性の高い決済手段の選択肢が現実味を帯びてきたことを意味します。特に24時間365日の決済需要が強い業種や、海外拠点との資金移動が頻繁な製造業・商社などでは、資金繰り管理システムや会計システムとの連携方式を今のうちから検討しておく余地があるでしょう。

ITストラテジストが今から備えるべき視点

自社が暗号資産交換業や資金移動業を営んでいない場合でも、この改正が無関係とは言い切れません。取引先やパートナー企業がステーブルコイン建ての決済を導入し始めた場合、自社の会計・基幹システム側でどのように受け皿を用意するかは、遅かれ早かれ検討課題になります。まず着手すべきは、自社の決済・資金管理フローの中で、電子決済手段や暗号資産が絡む取引がどこに生まれ得るかを洗い出すことです。次に、KYC(本人確認)やマネーロンダリング対策と連動したシステム要件を、決済ベンダーやAPI連携先の選定基準にあらかじめ組み込んでおくことです。会計システム側でも、ステーブルコイン建て取引を円貨換算してどう仕訳計上するかという実務論点が今後浮上してくる可能性があります。規制対応を後追いで実装しようとすると、既存の会計・基幹システムとの整合性確保に想定以上の工数がかかりがちです。皆さんの会社では、決済手段の多様化に備えたシステムのロードマップを、どの程度描けているでしょうか。

まとめ

改正資金決済法は、暗号資産・ステーブルコイン関連の事業者だけを対象にした制度整備ではありません。決済基盤の多様化という大きな流れの入り口であり、企業のIT部門にも影響が及ぶ可能性を秘めています。制度と民間の発行基盤整備がほぼ同時並行で進む今こそ、自社の決済・資金管理システムがこの変化にどう対応できるかを点検しておく好機ではないでしょうか。

参考情報

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