電子処方箋24.9%の現実が映す医療DXの分水嶺 ― ITストラテジストが担う「制度対応」から「価値創出」への橋渡し

電子処方箋の医療機関導入率は2026年時点でも約25%にとどまる。電子カルテ情報共有サービスの本格運用を控え、医療DXが直面する制度と現場のギャップからITストラテジストの役割を考える。

「電子処方箋の医療機関導入率、2026年2月時点でもまだ24.9%」――皆さんはこの数字をどう受け止めるでしょうか。薬局側の導入率はすでに8割を超えているのに、医療機関側は依然として2〜3割にとどまる。制度は整った、システムも用意された、それでも現場は動き切れていない。これは医療DXに限った話ではなく、多くの企業がDX推進で直面する構図そのものです。厚生労働省が「医療DX令和ビジョン2030」の下で進める電子カルテ情報共有サービスと電子処方箋は、まさにその縮図として2026年、大きな節目を迎えつつあります。

電子カルテ情報共有サービス、2026年度冬の本格運用に向けた助走

全国医療情報プラットフォームは2025年度から運用を開始し、検査値・傷病名・アレルギー情報などを医療機関・薬局間で共有できる基盤づくりが進んでいます。その中核となる電子カルテ情報共有サービスは、診療情報提供書・退院時サマリー・健診結果報告書の「3文書」と、傷病名・アレルギー・検査値など「6情報」を全国どこの医療機関からでも参照できるようにする仕組みです。標準仕様は2025年度中に策定され、2026年度からベンダー各社が準拠製品の開発に着手、モデル事業での検証・改修を経て2026年度冬ごろの全国展開を目指す計画となっています。これに合わせて国は「標準型電子カルテ」の認証制度を設け、2026年度診療報酬改定では「電子的診療情報連携体制整備加算」を新設するなど、対応する医療機関に経済的インセンティブを与える誘導策も講じています。制度設計としては、標準化・認証・加算という三点セットが揃いつつあると言えるでしょう。

「先行事例」電子処方箋が突きつける、普及の壁

一方で、同じ枠組みの下で一足先にスタートした電子処方箋の普及状況は、医療DXの難しさを如実に物語っています。薬局での導入率が82.5%(2025年6月時点)に達している一方、病院は13.4%、医科診療所は19.6%と、2026年2月時点でも24.9%までしか伸びていません。厚労省は当初「全医療機関への導入」を目標に掲げていましたが、進捗の遅れを受けて目標時期の見直しや診療報酬での後押しの検討に動いています。現場からは、加算の施設基準を満たすには単にシステムを導入するだけでは足りず、院内掲示の漏れや基準解釈の誤り、地方厚生局への届出不備によって加算が算定できないという失敗事例も相次いで報告されています。システムは動いているのに、運用ルールの整備や職員への周知が追いついていない――制度と現場の間には、想像以上に細かなギャップが存在するのです。

ITストラテジストが担う、「制度対応」から「価値創出」への橋渡し

電子カルテ情報共有サービスも、いずれこの電子処方箋と同じ壁に直面する可能性があります。標準仕様に準拠したシステムを導入すること自体はゴールではなく、院内の業務フローに組み込み、届出や運用ルールまで含めて定着させて初めて、加算という経済的メリットと、情報共有による医療の質向上という本来の目的が両立します。ここに、ITストラテジストが業種を越えて発揮できる役割があります。第一に、制度・加算といった「外形的な要件」を満たすことと、現場のワークフローが実際に変わり価値を生むこととの間にある距離を可視化すること。第二に、システム導入のスケジュールと、院内掲示や届出といった運用面のタスクを同じ計画の中に組み込み、後回しにさせないこと。第三に、全国医療情報プラットフォームで今後論点となる医療情報の二次利用ルール整備のような、次の制度変更を先読みして備えることです。これらは医療機関のシステム担当者だけでなく、周辺のITベンダーやコンサルタントにも共通して求められる視点でしょう。制度改正のたびに要件定義からやり直すのではなく、標準化の方向性そのものを先読みして提案できるかどうかが、選ばれるパートナーとそうでないパートナーを分けることになりそうです。

まとめ

電子処方箋の導入率が示すのは、制度とインセンティブを整えるだけでは現場は動かないという、医療DXならではの、しかしどの業界にも共通する教訓です。2026年度冬の本格運用を目指す電子カルテ情報共有サービスが同じ轍を踏まないためには、システム導入と現場定着を一体で設計する視点が欠かせません。皆さんの業界でも、制度対応はできているのに現場に根付いていない仕組みはないでしょうか。医療DXの動向は、そうした問いを改めて突きつけてくれます。

参考情報

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