「電子カルテ情報共有サービス」の全国展開が、当初の2025年度中から「2026年度冬ごろ」へと見直されたことをご存じでしょうか。厚生労働省は2026年3月に「概要案内2.0版」を公表し、モデル事業での検証を踏まえて仕様そのものを抜本的に見直しています。皆さん、このニュースを「遅れた」という一言で片づけていませんか。実はここには、国家規模の基盤を立ち上げる際の「仕様の確定とスケジュールのどちらを優先するか」という、ITストラテジストが必ず直面する意思決定の教科書的な事例が詰まっています。
電子カルテ情報共有サービスの現在地 ― 見直しの背景
このサービスは、医療機関の間で患者の診療情報を共有するための全国的な仕組みです。厚生労働省は、診断書や退院時サマリーなどの文書と、アレルギーや感染症、薬剤禁忌といった重要情報を、医療機関や患者本人が確認できる形にすることを目指しています。全国9地域・22医療機関によるモデル事業で課題を洗い出した結果、仕様の見直しが必要と判断されました。
現場の医療機関が実際に運用できるのは、ベンダーの準備期間も含めて2027年度からと想定されています。つまり、基盤側の稼働と現場の利用開始との間には、1年程度のタイムラグが生まれる計算です。システム開発の現場でも、中核基盤が先に稼働し、周辺システムの対応が後から追いかける構図はよくありますよね。このタイムラグをどう設計に織り込むかが、プロジェクトの成否を左右します。
注目したいのは、見直しの理由が「技術的に作れなかった」ことではなく、「実際の医療現場の運用に載せてみて初めて分かった課題が多かった」点にあることです。机上で確定した仕様を一斉に展開するウォーターフォール型の進め方では、こうした課題の発見が稼働後にずれ込み、手戻りのコストが一気に膨らみます。モデル事業という小さな範囲での先行検証を挟んだ今回の判断は、リスクを前倒しで潰すという意味で、むしろ合理的な進め方だったと評価できます。
電子処方箋が示す「導入率の壁」
もう一つの柱である電子処方箋の状況も見ておきましょう。2025年11月時点の導入率は、薬局で86.5%に達した一方、医科診療所は23.3%、病院は17.3%にとどまっています。薬局側の受け入れ体制は整いつつあるのに、処方箋を発行する医療機関側が追いついていないため、紙の処方箋を薬局で手入力する運用が残っているのが実情です。
この「片側だけ進んだ」状態は、多くの業界のDXで共通して見られる落とし穴です。ネットワーク型のサービスは、参加者の双方が揃って初めて価値が生まれます。どちらか一方が高い導入率を達成しても、全体の業務効率は上がりません。厚生労働省が電子カルテと電子処方箋の一体的な普及へと舵を切り、2030年までにすべての医療機関への導入を目指しているのも、この構造的な課題への対応と読み取れます。
病院や診療所にとって、電子カルテや電子処方箋への対応は、システム改修費や運用の見直しといった負担を伴います。導入しても直接の売上が増えるわけではないため、「やらなければならない」という義務感だけでは普及は進みません。参加者それぞれにとってのメリットを、数字と業務の流れで示せるかどうかが、基盤の定着を決める鍵になります。
ITストラテジストが押さえるべき3つの視点
第一に、「基盤」と「現場」の導入時期のずれを前提にした工程設計です。基盤の稼働日を最終ゴールとせず、現場が実際に使い始めるまでの移行期間を、独立したマイルストーンとして管理する必要があります。
第二に、普及を促す仕組みの設計です。2026年度の診療報酬改定では関連する加算が再編され、導入を後押しする制度的な動機づけが用意されました。システムの機能だけでなく、導入する側にとっての費用対効果やインセンティブまで含めて設計することが、利用が広がるかどうかを分けます。
第三に、仕様変更を許容するアーキテクチャです。今回のように、実運用に近い検証で仕様が大きく変わることは珍しくありません。変更に強い疎結合の設計や、段階的に展開できるリリース計画を、最初から選択肢として用意しておくべきでしょう。
まとめ
電子カルテ情報共有サービスの見直しは、単なるスケジュールの遅延ではなく、モデル事業の検証から学び、仕様を修正するという健全な開発プロセスの現れともいえます。導入率の偏りが示す「参加者が揃わなければ価値が生まれない」という課題は、皆さんが関わる業界のDXにもそのまま当てはまるはずです。基盤の稼働、現場の導入、そして利用の定着という3つの段階を分けて捉える視点を、ぜひ次の企画で試してみてください。皆さんのプロジェクトでは、どの段階が最も遅れやすいでしょうか。
医療・ヘルスケア分野のDXに関心のある方は、書籍紹介で取り上げている技術書やビジネス書も参考にしてください。
参考情報
- 電子カルテ情報共有サービス、2026年度冬ごろの全国展開目指す(日経メディカル)
- 電子カルテの普及について(厚生労働省 健康・医療・介護情報利活用検討会 資料)
- 医療DX 最新動向と今後の展望(経団連タイムス)
- 電子処方箋施策の現況と課題(厚生労働省医薬局)
(当記事に関するご注意事項)本記事は、AIによる情報収集と文書作成の試行として作成しております。参照文献を添付するなど事実関係については留意しておりますが、記事内の情報についての事実確認は保証しかねますことをご了承願います。
